15.ラテックス蛋白質の人工胃液中における安定性

矢上  健・配島 由二・中村 晃忠

(国立医薬品食品衛生研究所 療品部)

 はじめに

 ラテックスアレルギーの注目すべき点として、植物性食品や花粉・薬草に対する交差反応性が挙げられる。著者らは、ストレスの加わった植物が誘導する生体防御蛋白質群がラテックスアレルゲンであり、交差反応性抗原ではないかと考え、研究を進めてきた1)。生体防御蛋白質は果物や野菜に含まれるごく一般的な蛋白質でもあり、患者が多様な植物性食品に対して交差反応性を示す理由を、合理的に説明することができる。しかしながら、植物性食品に普遍的に含まれるこのような蛋白質を経口摂取した多数の人々が、新たに感作されてアレルギー反応を示すようになると推測することは困難である。従来より、食物アレルゲンとなる蛋白質の多くは、胃や腸で消化されにくいという特徴を持つと考えられてきた2)。経口摂取した蛋白質が分解されることなく腸管から吸収されて感作が成立し、その後、同じ蛋白質を摂取した際にアレルギー症状の発現に至るという訳である。そこで著者らは、ラテックス抗原や交差反応性が疑われる植物性蛋白質が、従来より想定されてきた食物アレルゲンの範疇に属するような蛋白質であるかどうかを、人工胃液中における安定性という観点から調べた。

 実験と結果

1.ラテックス蛋白質の消化性

 最初に、設定した実験条件で典型的な食物アレルゲンは消化されずに残存し、食物アレルゲンとはされていない蛋白質が容易に消化されることを確認した。アメリカ薬局方の規定に従って調製した人工胃液に、代表的な食物アレルゲンであるb-ラクトグロブリンを溶解し、37℃に保った。反応液を経時的に採取してSDS-PAGEで調べた結果、b-ラクトグロブリンは1時間が経過した後でも消化されていないことがわかった。一方、食物アレルゲンとはされていないリポキシゲナーゼや酸性フォスファターゼは、30秒以内に消化された。以上の実験結果は、Astwoodらにより既に報告されている知見2,3)に一致した。

 そこで、天然ゴムラテックスから抽出した粗蛋白質を人工胃液に溶解し、消化の進行具合を同様に調べた。その結果、ラテックス蛋白質の大半は、4分以内に消化されることがわかった(Fig.1A)。さらに、SDS-PAGEで分離した消化物をPVDF膜に転写した後、ラテックスアレルギー患者のプール血清と反応させ、IgE抗体が結合した蛋白質を検出した(Fig.1B)。このイムノブロッティングの結果からも、ラテックス抗原の多くは4分以内に消化されることが示された。一方、色素染色(Fig.1A)では検出が困難であったものの、28kD34kD付近のIgE結合性蛋白質が、消化に対して強い抵抗性を示すことが明らかになった(Fig.1B)。

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 続いて、ゴムの木の生体防御に関わると考えられる三種のラテックス抗原(b-1,3-グルカナーゼ、キチナーゼ/リゾチーム、カルボキシエステラーゼ)の安定性について調べた。各酵素の消化液を経時

Fig. 1 Digestibility of latex proteins in simulated gastric fluid. Aliquot of the digestive fluid was withdrawn at appropriate intervals and applied to SDS-PAGE. Proteins were stained with Coomassie brilliant blue (A) or transferred onto a PVDF membrane and incubated with a pooled serum from latex-allergic people (B). IgE-positive bands were detected by alkaline phosphatase-labelled goat anti-human IgE. In the lane std., latex proteins were run alone.

 的に採取してSDS-PAGEに適用し、色素染色とイムノブロッティングを行った。その結果、b-1,3-グルカナーゼ(Hev b 2)は4分以内に消化されることがわかった。キチナーゼ活性とリゾチーム活性を合わせ持つhevamineも、4分以内に消化された。一方、カルボキシエステラーゼは、消化に対して抵抗性を示した。この酵素の構成ユニットであると考えられる28kD34kD付近の蛋白質は、1時間が経過した後でも消化されずに残存していた。またこれらの蛋白質のバンドは、粗ラテックス蛋白質を長時間消化した後に検出されたIgE結合性蛋白質のバンドに一致した。以上の実験結果から、ラテックス抗原の多くは人工胃液により比較的容易に消化される蛋白質であるものの、カルボキシエステラーゼを構成するユニットの一部が、消化に対して強い抵抗性を示すことが明らかになった。

 2.交差反応性食物抗原の消化性

 ラテックスアレルギー患者が交差反応性を示すことが知られている植物性食品(アボカド、キウイ、ポテト)から蛋白質を抽出し、それらの人工胃液中における消化性について同様に調べた。その結果、アボカド蛋白質の大半は比較的容易に消化されることがわかった。ラテックスアレルギー患者のプール血清を用いて行ったイムノブロッティングの結果からも、ほとんど全てのアボカド抗原が30秒以内に消化されることが確認できた。キウイから抽出された蛋白質も消化されやすく、交差反応性抗原は1分以内に消失した。一方、ポテトから抽出された蛋白質は比較的消化されにくく、1時間が経過した後でも多くの蛋白質のバンドが色素染色により検出された。これらの内、15kD付近の蛋白質は、交差反応性抗原の一つであった。しかしながら、IgE抗体によって認識される大多数のポテト抗原は30秒以内に消化されることが、イムノブロッティングにより確認された。以上の実験結果から、ラテックスアレルギー患者のIgE抗体が認識する食物抗原の大半は、人工胃液により比較的容易に消化される蛋白質であることが明らかになった。

 考察

 一連の消化実験の結果は、交差反応の原因となる食物抗原の多くが、従来より想定されてきた食物アレルゲンの範疇には属さない蛋白質であることを、示唆するものであると考えられる(Fig.2)。

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Fig. 2 Schematic representations of complete food allergens and non-sensitizing elicitor. Complete food allergens are resistant to digestion and therefore can be peroral sensitizers as well as peroral elicitors. Non-sensitizing elicitors are digestible and therefore cannot be peroral sensitizers. However, they can induce oral allergy syndrome in patients pre-sensitized by cross-reactive proteins. 

 

典型的な食物アレルゲンはcomplete food allergensとも呼ばれ、経口摂取により感作が成立し、その後、同じ蛋白質を摂取した際にアレルギー症状の発現に至るものであると理解されている4)。容易に消化されてしまう蛋白質を経口摂取しても、感作を成立させるsensitizerにはなり得ない。しかし、そのような蛋白質であっても、吸入や直接的な接触というルートなら、sensitizerになる可能性が充分にあると推測される。ラテックスアレルギーの主な感作経路は、アレルゲンが吸着したパウダーを吸入することや、天然ゴム製品との直接的な接触であることが明らかにされている。実際、患者のIgE抗体が認識するラテックス抗原の多くは、人工胃液により容易に消化されてしまう蛋白質であった。重要な点は、このようなラテックス抗原と交差反応性があるような蛋白質が、多くの植物性食品に含まれているということである。アボカドやキウイ、ポテトから抽出された蛋白質の安定性を調べた結果、大半の交差反応性抗原は比較的容易に消化されることがわかった。したがって、このような蛋白質を健常人が経口摂取しても、sensitizerにはなり得ず、新たに感作が成立する可能性は極めて低いと判断される。一方、吸入などでラテックス蛋白質による感作が既に成立している患者に対しては、その交差反応性に基づき、このような食物抗原が"non-sensitizing elicitor"になる可能性があると予測される4)。つまり、ラテックス抗原と交差反応性があるような食物抗原の多くは、感作を成立させる経口sensitizerとはならないものの、アレルギー症状を引き起こす経口elicitorとして作用し、oral allergy syndromeなどの原因になると推測される(Fig.2)。一連の状況は、白樺花粉(Bet v 1)を吸入することで感作が成立した患者が、通常は問題とはならない多くの植物性食品(Bet v 1-related proteins)に対してもアレルギー症状を示すようになるという状況と、非常に類似しているのではないかと思われる5)。

 参考文献

1) Yagami T, et al., J Allergy Clin Immunol 1998;10 1:379-85.

2) Astwood JD, et al., Nature Biotechnol 1996;14:1269 -73.

3) Becker W-M, Int Arch Allergy Immunol, 1997;11 3:118-21.

4) Aalberse RC, Environ Toxicol Pharmacol, 1997;4:55-60.

5) Valenta R, Kraft D, J Allergy Clin Immunol, 1996;97:893-5.

 

−ディスカッション ラテックス蛋白質の人工胃液中における安定性−

Q) 冨高晶子(藤田保健衛生大学医学部 皮膚科学教室)

興味ある演題ありがとうございました。先生の研究されておられる生体防御蛋白質は交又反応を示す食物群というのは今後生産地で分けていくとかのグループ化されていくのでしょうか?たとえば交又反応を示し易い食物グループというようなことが実験とかで分かっていくものでしょうか?

A) 矢上健(国立衛生試験場 療品部)

生体防御蛋白のグループ化というのはすでに行われており、そのグループ表と言うのもあります。アミノ酸の配列の類似性に基づいてグループ分けされているのです。ただどの植物が生体防御蛋白質を誘導しやすいかと言うことでのグループ分けは、今のところされていません。もしかしたら、そういうグループ分けをしていけば、どういう食物に対して交又反応を示しやすいかという、実際の症状との相関がでる可能性もあると思います。

Q) 松永佳世子(藤田保健衛生大学医学部 皮膚科学教室)

いつも広いご研究をありがとうございます。一つ気がついたことがあるのですが、たとえばラテックスで感作された患者さんがクロスをしてショックなどをおこしやすい食べ物は栗とかバナナですが、口に入れたときに水で洗い流しでもしないと口の中に残ってしまうような食べ物が多いように思うのです。たとえば栗きんとんでも甘露煮でも良いのですが、栗の実そのもの。栗は剥いているときに手から入るというチャンスももちろんあるのですが、たとえば食べてしまえば、容易に吸収される抗原であるのならば、食べてしまってからはならないのかという、口の中である程度消化酵素が出る前の段階で非常に吸収がなければそういう症状が起きないのかと言うことについてはいかがでしょうか?

A) 矢上健(国立衛生試験場 療品部)

まず、バナナだとかアボガドだとかねばねばした食べ物が多いとのことでしたが、食物とか果物に一般的に含まれるペクチンという成分が多いということです。交又反応を示しやすい食品にペクチンが多いかどうかについては、調べた結果がありませんので何とも申し上げられません。食べた時に口の中でアレルギー反応が起こると言うことに関しては、まだ消化されていないからアレルギー反応が起こりやすいのだと思います。消化されると細切れになるので、抗体がくっつかないことはないですけれども、どうしても大きい蛋白質に比べればくっつく割合が少なくなると思われます。逆に小さい方がくっつくという抗体も、ないことはないと思いますが。ただ食物を食べた場合に、消化される前か後かと言う違いはあると思います。

司)斎藤博久(国立小児病院小児医療研究センター 免疫アレルギー研究部)

将来の話ですが、ラテックスの場合、減感作をするとしたら、注射よりも経口減感作の方が良いと言うことになるのでしょうか?

A) 矢上健(国立衛生試験場 療品部)

どうなんでしょうか?斉藤先生の方が専門家かと思いますが。